マラソンランナー | そのうちトライリンガル

マラソンランナー

東京国際女子マラソンで高橋尚子が優勝した。スター選手,アテネ五輪落選,2年のブランク,さらに直前のケガの公表,という事情もあり,オリンピック並みに注目されてるレースだなあと感じていた。


休みなのでTVでじっくり見ようと思っていたのに,結局仕事が入ってしまった。夜カノジョと食事をしてた時に「完走したの?」って聞いたら意味深な笑顔で答えてくれなかったから,リタイアしたのかと思ってたが,家に帰ってニュースで見たら優勝していたので驚いた。


実はもともと高橋尚子はそれほど好きなアスリートではなかった。いとも簡単に連勝を重ね,オリンピックでもさくっと金メダルを獲り,さらに世界最高も出す,そのサクセスストーリーを,選ばれた者の特権だと思っていた。「練習好き」というのも天性の才能だと思った。もちろん苦しい思いもしているのだろうが,それはみんな同じ,と思っていた。


でも,おととしの東京国際以降,歯車がうまく回らず彼女にとってつらい日々が続くのを報道で知るにつけ,「こんな人でもうまくいかないこともあるんだ」と思い,少し身近に感じるようになった。そして,彼女が捲土重来を果たせるのか日に日に気になるようになった。


そして20日の優勝。その言葉に王者の貫禄を感じた。「暗闇にいたが、夢を持つことで充実した1日1日を過ごすことができた。今悩んでいる人も,1日先でも3年先でも目標を持つことで充実した日々を過ごせると思う」。どんなにつらかったか,そして今どんなに幸せか,それだけではないところに人間の大きさを垣間見た気がした。臥薪嘗胆の日々を送っただけにその言葉には本当に重みがある。


アトランタ五輪の有森裕子を思い出す。「初めて自分で自分を褒めたいと思う」という言葉は高橋尚子に比べずいぶん内面的なものだが,バルセロナ後の不調・故障のつらい日々を乗り越えたことへの思いがつまっていると感じた。彼女は今は全く走っていないというが,マラソンから世界を広げ,現在は国連大使を務めたり引退後のアスリートたちの活躍の場を開拓したりと,精力的に活動を行っている。


高橋・有森の栄光のレースとそこから知ることのできる苦悩は,まるで映画のように心に訴えてくる。走るって本当にすごいことなんだと目から鱗の落ちる思いだった。